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福岡高等裁判所 昭和28年(ラ)4号 決定 1953年2月02日

抗告人 債権者 浦川内紅芙美

相手方 債務者 宮崎梅夫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、抗告の要旨

原決定は抗告人が強制競売を申立てた漁網干棚は動産であるから、不動産の強制競売以外の方法により強制執行をなすべきであるとの理由で、抗告人の不動産強制競売の申立を排斥したが、右漁網干棚は、海辺から海中にかけ長さ五間幅四間の長方形をなし大は周囲一尺五寸以上の松丸太数十本と、周囲一尺五寸以下大小の松丸太数百本を海底の土中深く打込み、その各丸太を柱として直立させ、倒れないよう縦横から支柱を施し交叉させ、鎹でとめ海面から高く海水のかからない高所に松丸太数十本を床木として列べ、更にその上に直経三寸から五寸までの丸竹数千本を並列接着させて棚となし、これに漁獲用の巾着網を干すもので、縦横の松丸太はその根元が全部海底の土中にあり、原形の儘では絶対に他に移動不可能な土地の定着物で時価十四、五万円相当の物である。従つて、本件網干棚は民法第八十六条の土地の定着物であるから、不動産に対する強制競売手続に準じ、競売開始決定をなすべきであるから、原決定を取消し、本件につき不動産強制競売開始決定をなすべき旨の裁判を求めるというのである。

二、当裁判所の判断

強制執行法上不動産に対する強制競売手続の適用もしくは準用あるものは(一)民法上不動産とせられる土地及びその定着物(民法第八六条)、建物(以上につき民訴第六四三条参照)、不動産の共有持分(民訴第六八九条)、(二)商船その他の海船(民訴第七一七条)、(三)特別法で独立の不動産とみなされる立木(立木に関する法律第二条)、工場財団(工場抵当法第一四条)、物権とみなして不動産に関する規定を準用する鉱業権(鉱業法第一二条)、物権とみなして土地に関する規定を準用する漁業権(漁業法第二三条)などであつて、しかも現行法の建前が登記(登録)能力ある物であることを予定していることは、民事訴訟法第六編の各規定、特に同法第六五一条、第六五〇条、第六四四条等、商法第六八四条、第六八六条、民訴第七一七条、第七二〇条等の各規定竝びに前示各特別法の諸規定の解釈上明らかであるから、橋梁、石垣のような土地の定着物であつても、被定着物たる土地と共に不動産強制競売の目的となることは格別、橋梁、石垣のみを目的とする不動産強制競売の申立は不適法として許されないものと解せねばならない。尤も、民法第二四二条但し書の適用ある場合右の橋梁、石垣が強制執行上、動産に対する強制執行の適用を受けることは別個の問題である。

本件漁網干棚が所論のような構造形態を有し、海辺の土地又は海底に定着する工作物であるとしても、同干棚が建物以外の定着物で、しかも登記能力を有しないことは抗告人の主張事実に照らし明らかであるから、同干棚のみを目的として、不動産強制競売もしくはこれに準ずる申立をなすことは、許されないところである。(なお漁業法第二十四条、第四十二条、第百二十四条参照)。従つて、本件競売申立を不適法として却下した原決定(原決定は申立を棄却しているが、申立却下の意であることは、その全文を見れば明らかである)は相当で、本件抗告は理由がないから、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 桑原国朝 裁判官 二階信一 裁判官 秦亘)

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